『エルマーのぼうけん』シリーズの作者、ルース・スタイルス・ガネットさんを偲んで ――― – 人形劇団プーク

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『エルマーのぼうけん』シリーズの作者、ルース・スタイルス・ガネットさんを偲んで ―――

▲自宅の前でほほえむガネットさん(2017年撮影)

 今年6月11日に100歳で亡くなった『エルマーのぼうけん』シリーズの著者、ルース・S・ガネットさんを偲ぶセレモニーが、先日8月12日(日本時間の13日)ルースさんの誕生日に合わせ、地元イサカ(米国・ニューヨーク州)で執り行われました。プークからは劇団員一人一人がメッセージを寄せた色紙をお送りしています。

▲ NHK教育テレビ『エルマーのぼうけん』撮影風景(1965年)

 プークと『エルマーのぼうけん』との出会いは古く、半世紀以上も遡ります。劇団創立当初から人形劇の映像化に強い関心を持っていたプークは、舞台と映像の相互間での実験的な試みを行う中で、NHK教育テレビ『エルマーのぼうけん』の製作に携わることになりました。この物語に惚れ込んだ劇団員は、広く子どもたちに届けるべき作品だとして、1965年には舞台化を果たします。

▲『エルマーのぼうけん』舞台初演ポスター(1965年)
グラフィックデザイナー・土方重巳さんの手掛けたイラストが大人気に。土方さんは戦前からのプークの協力者で、キャラクターデザインの先駆者としても知られる。
▲舞台写真(1965年)
▲『エルマーと16ぴきのりゅう』ポスター(1966年)
▲舞台写真(1966年)

 その頃の日本は、子どもたちを取り巻く文化環境が著しく変化し、過渡期を迎えていました。「子どもたちのためにどのような人形劇を創っていくか」そのような模索の中で生まれた舞台『エルマーのぼうけん』は、地域の母親、青年たちを巻き込んだ、「子ども劇場」「おやこ劇場」運動の象徴的な作品として全国に広がってゆくのです。以来、日本各地で多くの支持を得ながら、プークの大切な作品として受け継がれてきました。

▲ルースさんの自宅の前で記念の1枚。プロデューサーの西本と(2017年)

 そしてプークは、2019年の劇団創立90周年に向けた大きなプロジェクトを立ち上げたのです。それは、様々な課題を抱えた現代社会に生きる私たちが、『エルマーのぼうけん』と改めて向き合い、新たな舞台を創ろうというものでした。美術家には、ブルガリア人形劇界の巨匠マィア・ペトロヴァ氏を迎えることに決まりました。また出版70周年を迎えたアメリカでは、原作者のルースさんが元気に暮らしていらっしゃるという、これ以上にない素晴らしいニュースを耳にした制作チームは、ぜひ一度お会いしたいとイサカのご自宅を訪ねることにしました。

▲プーク美術部から人形のプレゼント。このあとルースさんによる即興人形劇が!(2017年)

 実は少し前に骨盤の骨を折る大怪我をされていたルースさんでしたが、私たちのことを快く迎えてくださったのです。それどころか、背筋はピンと伸び、自分の足で歩きまわって家の中を案内してくれるほどの回復ぶりでした。部屋には季節に合ったクロスやインテリアが、生活のための道具がたくさん揃っていました。食卓には庭に生ったオレンジの実、お手製のパンにジャム、地元で作られたバターにチーズが所狭しと並べられ、私たちにふるまってくれました。人間の豊かな営みと、遊び心に満ちた暮らし、時折見せる子どものような表情に、私たちはいつしかエルマー少年を重ねその人柄に惹かれていったのです。

▲空港で出迎えたプークメンバーに、長旅を感じさせないとびきりの笑顔で答えてくれたルースさん(2018年)

 日本のファンの皆さんがルースさんに会ったら、どんなにか元気をもらえるだろう。私たちの夢は膨らみ、2018年夏、ついにルースさんの来日が実現しました。その大スクープはたちまち日本全国を駆け巡り、取材やイベントで持ち切りとなりました。ハードスケジュールの中でも、ルースさんと、同行していた娘のルイーズさん、ペギーさんは、日本での交流を心から楽しみ、いつもにこやかに私たちの仕事を気遣い、たまに冗談を言って笑い合ったりしたのを本当によく覚えています。紀伊國屋公演初日の舞台挨拶、4日間8ステージの公演、プークの演出家と3人のゲストを招いたパネルディスカッション、クラウドファンディング協力者を交えた懇親会、書店でのサイン会と、連日満員のお客さんが詰め掛けました。

▲公演初日の舞台挨拶 / 満席の紀伊國屋ホール / 報道陣に囲まれて(2018年8月2日)
観劇中、動物たちのおかしな動きややり取りに、声をあげて笑っている姿が印象的でした。

▲パネルディスカッション(2018年8月4日)
『エルマーのぼうけん』を執筆したときのこと、子どもの頃のこと、今の暮らしのことなど、たくさんお話くださいました。ファンからの質問に直接答えるコーナーも。写真左から二番目は、翻訳をされた渡辺茂男さんのご長男で、子どもの本作家の鉄太さん。オーストラリアから駆けつけてくださいました。
▲バースデー・パーティー(2018年8月5日)
95歳の誕生日を翌週に控えたルースさんを、プークメンバーと紀伊國屋書店スタッフらでお祝いしました。向かって右が次女のぺギーさん、左が五女のルイーズさん。最後は皆で輪になって、歌って、踊って、楽しいひとときでした。

 それらのどのシーンにおいても、ルースさんから発せられる眩い光のようなエネルギーを受け取らなかった人はいないはずです。ルースさんには生きるエネルギーが溢れていました。私たちにとって、エルマーそのものであったルースさん。決して争うことをせず、知恵と勇気と優しさで、どんな困難も乗り越えてみせるエルマーの姿に、私たちは魅了され続けるのです。ルースさんとエルマーが紡いだ物語は、これからも生き続けるでしょう。

ずっとずっと大好きです、ルースさん ―――

▲ガネットさんから頂いた観劇記念の色紙。プークの宝物です。
“日本で過ごした時間、プークの人々とその協力者のみなさんと共に過ごした時間は、本当に楽しいものでした。公演の日、あれほど沢山のエルマーとボリスのファンに会うことができて感激しましたし、三世代にわたってエルマーを愛してくれている人々にも出会えて、なんと嬉しかったことでしょう。人形遣いたち、人形たち、舞台美術、音楽、その全てが魅力的でした。”(帰国後に下さった手紙より)